社会課題

高濃度ウルトラファインバブル(UFB)水による
高分子医薬品の溶解性改善と凝集抑制への応用可能性


現在、医療分野において重要な社会的課題の一つは、高分子医薬品の安定的かつ効率的な製剤化です。とりわけ、ペプチドやタンパク質を主成分とするバイオ医薬品の多くは、極めて複雑な分子構造と高い親水性・疎水性ドメインの共存により、水に対する溶解性が限定されており、製剤設計や投与法に大きな制約をもたらしています。





その代表例として挙げられるのが、糖尿病治療において不可欠なインスリンです。インスリンは溶媒中で自己会合(凝集)しやすく、適切な溶解環境が整わなければ、生物活性を保持したまま安定的に投与することが困難になります。インスリンの製剤安定性は、長年にわたり製薬業界および学術界において研究の対象となってきたものの、未だに本質的な解決には至っていません。
このような背景のもと、我々は高濃度ウルトラファインバブル(UFB)水が、高分子医薬品の製剤開発において新たなソリューションとなる可能性を見出しました。UFBは、水中に直径100nm未満の極微細気泡が高密度で分散した液体であり、表面張力、気液界面積、局所的な界面電位などの特殊な物理化学的特性を有しています。



我々の研究において、高濃度UFB水がインスリンの水中分散性を顕著に向上させることが確認されました。これは、UFBが形成する広大な気液界面が、インスリン分子の疎水的ドメインとの相互作用を促進し、分子の凝集を抑制する方向に作用している可能性を示唆しています。また、UFB水中では、インスリンの自己会合傾向が有意に低下することも観察され、凝集抑制効果があることが明らかになりま
した。



さらに興味深いことに、同様の現象はインスリン以外の高分子医薬品候補物質、特に水難溶性のペプチドやタンパク質でも確認されており、UFB水が特定の分子に限定されず広範な分子に対して分散性・安定性の向上効果を発揮する可能性が示唆されています。
この知見は、バイオ医薬品の開発における製剤設計や保存安定性向上、さらには新規投与形態の実現に対し、極めて実践的かつ革新的なアプローチとなり得ます。加えて、従来の添加剤や界面活性剤に依存しない処方設計が可能になることは、製品の安全性やコスト削減といった側面からも大きなメリットをもたらします。





今後は、UFB水の特性をより精密に評価し、分子レベルでの作用機序を解明するとともに、
GMP環境下での応用可能性を検証し、医薬品製造プロセスへの実装を目指してまいります。

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